カテゴリー「世界文学のたび」の11件の記事

2014年9月23日 (火)

「猫語の教科書」 ポール・ギャリコ ちくま文庫

ちょっと前にテレビのCMで、かわいい子ネコちゃんのあどけない表情にかぶせて「パンケーキまだですか?」ってナレーションが入るのがありました。
子猫の表情があまりにかわいくって、思わず微笑んでしまうCMでしたが、
この本を読むと、なにか裏があるんじゃないかと思わず疑い深くなってしまいます。

ネタバレになるといけないので、あまり詳しくは書きませんが、内容は(恐らく)メスの猫ちゃんによる猫のための「人間のしつけ方」指南書です。

これが面白いんです。

で、男の私は、女性がちょっぴり怖くなりました。

理由は・・・・ぜひ、この本を読んでください。

ポール・ギャリコは「スノーグース」や「七つの人形の恋物語」などを読んだことがありますが、とても面白く一気に読ませる技量を持った作家ですね。

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2014年9月 4日 (木)

「日の名残り」 カズオ・イシグロ

日系の英国人作家カズオ・イシグロ。
ブッカー賞を受賞した本作品は、読み応え充分。
淡々とした展開ながら、グイグイと小説の世界へ引き込まれていきます。

最近、年を取るって事を、意識させられる出来事が多く、
この小説の主人公の執事のように、
世界の中心にいたはずなのに、
いつの間にか世の中から取り残されている
というような悲哀を
味わう日が近くやってくるのかな
などと思う事が多いです。

現実とは、かくも緩やかに、
だけど確実に、
私たちをおし流して行くものなのでしょうか?

カズオ・イシグロはユーモアを交えながら、
執事の悲哀を描きますが、
日の名残りの寂しさ、やさしさが、自分の胸にしみてきます。

もっと若い頃に読んだら、良く理解できなかったかも知れない小説です。
この時期に出会えて良かったです。

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2012年9月12日 (水)

自省録 マルクス・アウレーリウス

「未来のことで心を悩ますな。必要ならば君は今現在のことに用いているのと同じ理性をたずさえて未来のことに立ち向かうであろう」マルクス・アウレーリウス

自省録は、史上稀有な哲人皇帝の言葉をまとめたもの。

ちょっと古めかしい道徳的な言説も多いけれど、実際にローマ皇帝という俗世の権力の最高位に就きながら、哲学者として生きた人の言葉だけに、真実があります。

疲れたときに勇気をもらえますよ。

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2007年6月11日 (月)

「饗宴」 プラトン著 久保勉訳 岩波文庫

またまたプラトンです。前の「パイドン」のエントリーでも書きましたが、この人の文章の上手さ、構成の巧みさは、素晴しいです。哲学者にしておくのはもったいない(笑)。とにかくソクラテスをはじめ登場人物もみんあ魅力的に描けているし、「シンポシオン」ー共に飲むという宴会の雰囲気の中で語られる「エロス賛歌」はギリシア的な雰囲気に満ちています。史実に基づいているとはいうものの、プラトンの創作にかかる部分も多いでしょうから、やはりこの人の作家としての力量は並大抵ではありません。

特に私が感心したのは、ソクラテスの演説の中に、マンティネイヤの婦人ディオティマから聞いたという箇所が挿しはさまれているところです。いわば「入れ子」の構造になっていて演説の主旨をより効果的に表す事に成功しています。他の対話編と同様に、論理はわかりやすい平易な例から段々と抽象的霊的な領域に近づいていきます。現代の我々の考え方の基礎となっている論なので特に新奇さは感じませんが、無理のない論理の展開です。

「饗宴」は、「ソクラテスの弁明」や「パイドン」に比べると全体にハレの雰囲気を持っています。悲劇作者アガトンの作品が賞を得た祝いの宴会が舞台なので、当然かも知れませんが、人々の心を躍らせる「エロス」への賛歌がテーマになっていることも大きなファクターでしょう。「パイドン」とはうってかわったソクラテスの陽気な一面を見ることができます。プラトンが師との楽しい思い出を回想しながら、執筆した姿が浮かんできます。

「弁明」「パイドン」に比べると訳がちょっと古いのが、残念かも。

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2007年5月13日 (日)

「パイドン 魂の不死について」 プラトン

「パイドン 魂の不死について」 プラトン著 岩田靖夫訳 岩波文庫

久しぶりの文学のたび。プラトンが続きます。プラトン大好きになってしまいました。もちろんそこで語られるソクラテス像も。

このプラトンは高校の頃の現代社会とかでは「哲学者」として習うのですが、文筆家としての才能も素晴しいものがあると思います。原典で読んでるわけではないのですが、劇的な効果や格調高い文章などが感じられ文学として楽しく読める作品になっています。

内容は、死刑を宣告されたソクラテスが、せまりくる刑の執行の前に別れを悲しむ弟子達に向かって、魂の不死を証明してみせ、悲しむことなどないのだと訴えるというものです。

「魂の不死」についての議論では、ややツメが甘いところも感じられますが、ソクラテスの思想の「生きる」ということへの考えが深く反映されていて、ある種の感動を呼び起こします。

本当に、生きるとは、善とは、美とは、などという人間の根本の事柄について、真面目に語り合う姿は、今、この時代だからこそ私たちにもう一度必要なことなのではないでしょうか?小学校や中学校の授業でぜひ「対話」の授業を取り入れて欲しいものです。卑近な例から哲学的な根本の問題まで、対話をしながら相手の理解を確認しながら進めていくソクラテスのやり方は、「ディベート」などという論争に勝つことを目的とした論議とは根本的に違うものです。そこには、相手への愛情があり、人間はみんな「無知」で「不完全」であるという認識があります。

ソクラテスこそが、人類が持った不滅の先生であり、プラトンがその姿を理想的な形で伝えてくれているのです。

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2007年3月 1日 (木)

「ソクラテスの弁明」 プラトン

これは本当におすすめなので、未読の方はぜひ読んでください!!

「世界文学のたび」とは言ってもギリシアはやはり思想関連も読んどこう!!と思って手に取ったプラトン。本書には「ソクラテスの弁明」「エウチュプロン」「クリトン」の3編が収められていますが、何で今までプラトンを読まなかったんだろうと後悔しましたよ。体裁は良く言われる「対話編」という形式で書かれていて、基本的にはソクラテスとエウチュプロンやクリトンの対話を書き記したものです。「ソクラテスの弁明」だけは、法廷でのソクラテスの弁明を記したものなので、基本的にソクラテスの独白になっています。

文章は非常に読みやすいです。ただし、言葉を正確に使おうとする点と、言葉を定義しながら話していこうとするソクラテスの方針からややまどろっこしい文章になっていますが、そこは慣れればまったく大丈夫でした。

この本で描かれているソクラテス像は、まったくの真実ではないのかも知れませんが、極端なフィクションでもないでしょうから、本当に「知者」と呼ぶにふさわしい人物だったと思います。有名な「無知の知」もソクラテスの独白に沿って読んでいくとすんなりと心に入ってきます。

また、死刑の決まったソクラテスに国外逃亡を勧めに来たクリトンに対して、ソクラテスが理路整然といかに間違った判決であっても国法に従って死ぬことが正義なのだと論証する「クリトン」は、このように簡略化して書くと冷血な感じがしますが、ソクラテスがクリトンの好意に非常に感謝し、気を使いつつも自分の正義を貫き通すことを親しい友人であるクリトンにも心の底から賛同して欲しいとの気持ちからこんこんと湧き出す言葉であり、私は素直に感動いたしました。

この「クリトン」の緊迫した状況での対話など、プラトンの文筆家としての力量はかなりのものだと思います。先のイエスもそうですが、人類の歴史の最初の頃にこのような素晴しい人物達が出てくれたことによって、現在の我々の正義観だとか愛の観念とかがあるのだと思うと、はるかな歴史上の人物が意外と身近に見えてきます。

「ソクラテスの弁明 エウチュプロン/クリトン」 プラトン 山本光雄訳 角川文庫

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2007年2月 1日 (木)

「ダフニスとクロエー」 ロンゴス

「ダフニスとクロエー」 ロングス作 岩波文庫

えーっと世界文学の旅の再開です。

これは、いわゆる「ギリシア小説」というカテゴリになるらしいのですが、成立は2世紀後半から3世紀前半というので、ローマ時代になりますか。サッフォーの故郷レスボス島を舞台とした、少年少女の牧歌的な恋の物語です。本当に牧歌的な世界と美しい恋が描かれていて、読んでいて心がホッとします。

三島由紀夫の「潮騒」はこの物語を下敷きとして書かれたようで、そういえば潮騒の舞台である神島を訪れたときに、かみさんが旅行で行ったことがあるギリシアの景色に似ていると言っていたのを思い出しました。玉石を敷き詰めた路地の雰囲気や優雅なしぐさの野良猫が多いところが似ているんだとか・・・。それはさておき、神島は神島でどこか郷愁を感じさせ、本来海洋民族が持っている血の記憶を呼び起こす原風景のような何かがあるという感じを受けました。

ニンフやパーン(牧神)への信仰がきわめて自然な日常のこととして描かれており、親しめる神とともにある生活は、私の理想でもあるので、おおいなる憧れを感じます。この物語をモチーフとしたシャガールの連作絵画などもあるようで、自然でおおらかな性描写とともに、タフな現実に向き合わなければいけないすべての現代人のための童話として、ぜひおすすめしたい小品です。

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2006年10月 5日 (木)

ギリシア詩文抄  北嶋美雪編訳

サッポオを読んでみたくて・・・。レスポス島生まれで、文学史上に燦然と輝く女流詩人。「レズビアン」の語源にもなった人ですね。

月は入り  昴も落ちて  夜はいまや丑三つどき  時は刻み 過ぎ行くも  われはただ 独りし眠る

夕星よ  光をもたらす暁が  散らせしものを  そなたはみなつれ戻す  羊をかえし  山羊をかえし  母のもとに子をつれかえす

もっと奔放なイメージがあったのですが、意外に理知的な印象を受けました。本邦の額田王よりは、芯が強く男性的ですが、視点は女性らしく、やさしさを感じます。

編者は、プラトンの研究者で、プラトンの引用が多いのですが、真理の探究へのあくなく追求を感じました。同時代のヘシオドスやアリストテレスに比べても、その姿勢は深いものがあるようですね。

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2006年9月14日 (木)

「オイディプス王」 ソポクレス

正に血の宿命を感じさせる名作中の名作悲劇。「エディプスコンプレックス」は、世の男性全員にかけられた呪いなのか?

世界文学のたびは、旅人(海鳥本人)の仕事が忙しいにも関わらず意外と順調に進んでいます。

紀元前5世紀のアテナイ最盛期に活動した悲劇作家のソポクレスの代表作で、作品を読んだことがなくても「エディプスコンプレックス」という言葉は聞いたことがある人は多いでしょう。男の子は無意識の中で自分の母親を我が物にしたい欲望を持っているというアレです。

物語は、テバイの王オイディプスが、先王の殺害犯人の探索を命じることから始まります。この作品は悲劇つまり戯曲の形式をとっているので、登場人物のセリフと合唱隊(コロス)による歌で進行していきます。不吉な予言の謎解きが、張り詰めた緊張感の中で、刻々と進んでいく様は圧巻です。しかも真実の暴露は、もっぱらオイディプスの疑念を晴らそうとする周囲の人物達の善意によって引き起こされるところも、皮肉というかこの悲劇のすぐれた点でしょう。

ハーバード大学でセリフも古代ギリシア語をもちいて、完全な復元上演が行われたことがあるそうですが、非常に好評だったようです。セリフは日本語で構わないので、合唱つきの舞台でみてみたいものですね。

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2006年9月 7日 (木)

「神統記」 ヘシオドス

さてさて、ホメロスからちっとも前に進めない世界文学の旅。ギリシア文学についての基礎知識などもおさらいしたりして、時間がかかっていますが・・・。

そしてこのわたしに 育ちのよい月桂樹の若枝を手折り

それをみごとな杖として授けられ わたしの身のうちに

神の声を吹きこまれたのだ これから生ずることがらと

昔起こったことがらを賛めうたわせるように。

ヘシオドスの「神統記」も基本的には、聴衆の前で吟じられた作品であるわけで、文字で読むのと古代ギリシア語の吟誦で聞くのとでは、大きな違いがあるのだろう。実際にヘシオドスは、詩の競技会で優勝し、賞品にもらった鼎(かなえ)をヘリコン山の神殿に奉納したと歌っている。

物語は、天地開闢から、様々な系譜の神々の出現を経て、ゼウスが世界の支配者となる過程をゼウスの正当性を主張しながら展開される。ゼウスの全知全能ぶりが、表現されていて、作者の見解というか個性が色濃くでた内容と目されているようだ。

一番最初にヘリコン山のムウサ(詩歌女神)への讃歌があり、その中で自分は女神達から真実を語る能力をさずかったと歌っている。神々へ捧げられる口頭詩の力強さが、古代への憧れを呼び覚ます。リズムの良さと力強さが、ともすれば冗長になりがちな神々の系譜の羅列の部分も読みやすくしている。神楽や能を観る感覚であまり違和感なく楽しむことができました。

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